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 井ノ上 了吏 先生
  C D  


『モーツァルト オペラ・アリア集』


当代きってのベルカントと古楽器の出会い

1973年ペルー出身のファン・ディエゴ・フローレスは、17歳でリマの音楽院に入学しました。

最初はポップスに興味がありましたが、20歳頃から本格的にクラッシックを始め
1996年ロッシーニフェスティバルデビュー以来、スカラ座、コヴェントガーデンと、
世界の主要歌劇場で引っ張りだこです。

ロッシーニ、ドニゼッティ、ベッリーニのベルカントオペラ作品で高い評価を得てきたテノール歌手で、
特にドニゼッティのオペラ「連隊の娘」ハイCを9回連続で歌うテノールにとって至難のトニオ役で名声を得ました。

その彼が満を持してレコーディングしたのが、モーツアルトの名作オペラのアリア集です。

共演はリッカルド・ミナージが指揮する古楽器オーケストラ、チューリッヒ歌劇場ラ・シンティッラ管弦楽団です。
抜群のテクニックと美声を併せ持つ当代きってのベルカントテノールと、優れた古楽器奏者たちとの素晴らしい出会いは、
モーツアルトの普遍的な魅力を新鮮な響きと共に我々に伝えてくれます。

今年12月に来日することもあり、とても期待できる1枚です。
              
2019.11.6



 
 
 小森谷 巧 先生
  C D  


『弦の巧 II』


小さな頃から親しんだ旋律を慈しむように弾く

私がお勧めする資料は「弦の巧II」というCDです。

選曲については、自分が小さい頃から耳にしていた曲、当時レコードなどで聴いていたけれど、
最近演奏されなくなってきている曲と、自分の好きな曲を併せて14曲選曲しました。
その内5曲はクライスラーの曲です。

選曲の特徴は、3分~4分位の曲で、皆さんが聴いて「これ知っている。でも曲名が分からない」とか
「昔は聴いたけれども、最近は聴かなくなったな」というものを集めました。


収録曲の中では、ドヴォルザーク作曲の「カヴァティーナ」という曲が特に気に入っています。

「カヴァティーナ」は特に曲の形式がなく、ただメロディーが繰り返される単純な曲なのですが、
自分の中の昔の思い出、家族との思い出や旅愁をイメージさせる曲です。

演奏してみると、ヴァイオリンに一番向いている音域で、私の奏でるヴァイオリンの音色が活かせる、
とても大好きな曲なのです。

この曲は、私のヴァイオリンの師匠であるヨセフ・スーク先生(※)がよく弾いていた曲です。
最近、弾く人が少なくなってしまったので、自分が紹介したいなという気持ちで選曲しました。


本来、演奏はホールなどに足を運んで、生で聴いていただくのが一番いいのですが、
このCDは「身近に感じてもらえる演奏」を意識して制作しました。

弓を返したときに発生するこすれる音や、演奏しているときの呼吸音をそのまま残しています。
ホールやスタジオ録音では消されてしまう音をわざと残すことで、身近で演奏しているような臨場感が伝わると思います。

ぜひ、良質なヘッドホンやイヤホンで聴いていただきたい1枚です。


【演奏に使用した楽譜】
Antonín Dvořák ---Supraphon版
Fritz Kreisler-------Schott版 

※Josef Suk (1929-2011)
チェコ出身のヴァイオリン奏者。
チェコの作曲家ドヴォルザークの曾孫。同姓同名の作曲家ヨセフ・スークは祖父。
ヴァイオリン奏者としてだけでなくヴィオラ奏者としても活躍し、室内楽の演奏活動を盛んに行っていた。
              
2019.7.2



 
 
 近藤 譲 先生
  図 書  


『ものがたり西洋音楽史』(著:近藤譲)


音楽とは何か?

今年の三月末に、『ものがたり西洋音楽史』(岩波ジュニア新書)という本を出版しました。

この本の大きな特徴の一つは、中世から二〇世紀末までの西洋音楽史を四つの時代に区切り、
その各時代の音楽を、それぞれに独特の価値をもつ異なった音楽であると見なしていることです。

そして、それらの時代の間の繋がりも意識しつつ、音楽についての考え方、音楽様式、
代表的な作曲家と作品などを通じて、時代ごとの特質をできるかぎり簡潔に描き出そうと努めました。

専門的な知識を持たない若い人たちにも分かりやすいことを意識して書かれていますが、とはいえ、
この小さな一冊で西洋音楽の歴史全体の構図をつかむことができるように、大学生にも十分に
読み応えのある内容になっていると自負しています。 


この『ものがたり西洋音楽史』は、私にとって、七冊目の本になります。

私の本業は作曲家ですが、作曲活動の傍らで、こうして何冊もの本を書いてきました。

なぜそんなに本を書くのか?

勿論、それには理由があります。
私は、作曲をしているうちに、自分を虜にしている「音楽」というものがいったい何なのかを
知りたいと思うようになり、そして、音楽に係る思想、理論、歴史などの書物を読み漁り始めました。

しかし、知識をどれほど蓄えたとしても、「音楽とは何か?」という問いへの答えが得られるわけではありません。
というのも、このような大きな問いには、「人間とは何か?」といった問いの場合と同じように、明確な答えなどないからです。

そして、答えがないからこそ、私たちは、様々な知識の土台の上で、自分でこの問いについて
考えていかねばなりませんし、それによって、無限に考えをめぐらす楽しみを得ることにもなります。


つまり私の本は、「音楽とは何か?」を巡る私の思考の軌跡に他なりません。

音楽について考える楽しみを、少しでも多くの読者の皆さんと共有できれば、
私にとってそれに優る幸せはありません。

2019.6.28



 
 
 酒井 健太郎 先生
  図 書  


『生物と無生物のあいだ』(著:福岡伸一)


動き続ける秩序

「音楽」ってなんだろう。そんな疑問を抱いたことはありませんか。

ある辞書では「音楽」は「音による芸術」と説明されています。
「音」はわかるけど「芸術」ってなんだろう。そんな新たな疑問がでてきてしまいます。

もしかしたら「音楽」(や「芸術」)を「モノ」と考えるから行き詰まるのかも。
「音楽」はわたしたちの眼の前(耳の中?)で繰り広げられる「デキゴト」と捉えると、
考えやすくなるかもしれません。

「生物」ってなんだろう。そんなことを考えたことはありますか。

ある辞書には「生きて活動し繁殖するもの」と書いてあります。
「繁殖」は増えること。では「生きる」とは? これまた難問です。 

福岡伸一の『生物と無生物のあいだ』は、遺伝子やタンパク質を相手にする分子生物学の
(一見、地味だけど実はスリリングな)歴史をたどりつつ、「生きること=生命」の本質に迫ります。

わたしたちの身体はいろいろな物質からできあがっています。その材料である分子は
常に身体を出入りしていて(呼吸や飲食・排泄はその一環です)、身体を組み替えています。

流れのなかにある(動的)材料が、組み合わさって留まった(平衡)ところにあらわれるのが身体、
というイメージです。
「生命」はこの「動的平衡」を維持する活動だというわけです。 

その流れは時間的、つまり不可逆で、一度起きたことは二度と起きません。
「生命」には時間(元には戻れない流れ)と秩序(組み合わせ)があるというわけです。

こう考えると、「生命」は、秩序によって形づくられた「モノ」(タンパク質とかカルシウムとか)
であるだけでなく、時間の流れにのった平衡維持活動という「デキゴト」と捉えることができるようになります。 


時間と秩序。何かを思い出しませんか? 

そう、われらが「音楽」です。世界には音が溢れています。

音が秩序にしたがって並べられて鳴り、消える。

わたしたちはその「デキゴト」を「音楽」として聴き取っているのだ・・・
そんなことを想像させてくれる本です。

2018.10.23



 
 
  尾崎 有飛 先生    
  C D  


『Mozart Piano Works』


音楽は演奏する人自身も演奏を聴く人のひとりである

フランチェスコ・ピエモンテージは、同じ門下として共に勉強した友人であると同時に、
留学前から憧れのピアニストであり、目標とするピアニストのひとりでした。

僕がドイツ生活を始めたときには、彼は既にヨーロッパ中で活躍していてレッスンには
あまり来なかったのですが、レッスンを受けに来ると聞けば必ず聴講に行き、
コンチェルトをレッスンに持ってきているときはよく伴奏して勉強させてもらったものです。

初めて演奏を聴いたときは音色の美しさに衝撃を受け、それからしばらくは自分が練習で出す音に
うんざりする日々を過ごしたほどでした。

しかし何よりも、ピアノで人に語りかけるということにおいて、フランチェスコは間違いなく世界の
トップのひとりと言えるでしょう。
それはまるで、演奏者と聴き手の距離感が、絵本をやさしく読み聞かせる母親と、
話を聞き入ってまるで自分が物語の中にいるような錯覚を覚える子どものようになるのです。 
 

今までレッスンやコンサートなどで様々な作品の演奏を聴いてきましたが、
今回おすすめするのはモーツァルトのピアノ・ソナタと小品の演奏です。

ここには、アーティキュレーションのアイディアや、リピートの際に即興で加える装飾、
自然に呼吸をするような間の取り方などが、実に多彩に表現されています。

また、メロディーの歌い方はモーツァルトのオペラを連想させるような豊かな表情に溢れ、
どの1音をとってもそこにはキャラクターが宿っているのです。

そして、この即興性やトリルの中の1音さえも魅力あるものにする演奏は、
僕自身が装飾音に対する苦手意識から抜け出し、曲の魅力を更に引き出すための
「装飾」であるという意識をもって演奏出来るようになるきっかけとなりました。


必死で練習していると、「自分が弾く」あるいは「弾けるようになる」ことばかり考えて
しまいがちですが、音楽は「演奏する人自身も演奏を聴く人のひとりである」という原点、
共有している空間と時間の中の対話であることを思い出させてくれるモーツァルトです。


是非聴いてみて下さい。

2018.3.10